『茅野駅前の巨石』とは
2010年に出土した、球状の巨大な岩石
『茅野駅前の巨石』とは2010年に、長野県茅野市で出土した巨大な球状の岩石である。

きっかけは、土地区画整理事業として茅野駅西口を工事中のことであった。地下3mの地点で発見されたそれは、当初はただの障害物として破壊、除去される予定だったが、調べるとその形状は丸い巨石であることが判明。何か神聖なものを感じた関係者によって、慎重に採掘された。そして、その見事な造形から、後に注連縄まで飾られ駅前に保存されることとなった(2024年の撮影時点では既に注連縄はなかった)。


なお、採掘後に石を学術調査した結果、約12~13万年前に北八ヶ岳の火山活動で噴出した溶岩流がもたらした岩石であることが推測できた。また、全体的に多孔質で摩耗度が高いことから、洪水などで長い年月をかけて削られたことで球状となり、それが茅野市の台地に堆積していたのではないかという。

現時点では、特に謂れの「ない」石
市は、このような巨石が突如出土したことに「単なる偶然とは思えない」ものを感じ、神の磐座であると信じて、駅前に保存したという。
古来、私たちの祖先は磐座信仰をし、地上に鎮座する大石に神の降臨を意識してきた。悠久の時を経た巨大岩石が、突然、地上に出現したことは、単なる偶然とは思えない。
我々を守る神の磐座であると信じ、シンボルとして、駅前縄文公園隣接に永久保存することとした。
茅野駅前まちづくり協議会『弥生通りから出土した大石について』(石前の説明版より)
つまり現状は、この巨石に何かの伝説や由緒などはなく、「ただの大きな自然石」ということである。ちなみにその後、茅野駅前まちづくり協議会はこの巨石に纏わる物語を考えたそうだが、いいアイデアが生まれなかったという。
協議会に聞いたところ「実は、御利益がありそうな物語がないか考えたんですけど…なかなかいい話が生まれなかったんです」と教えてくれました。
withnews『工事中に現れた大きな岩「おもしろいから」しめ縄で祀った地元民』(2015年9月8日)

確かに立派な形をしているとはいえ、なぜこの巨石は、ここまでの扱いを受けるに至ったのか。そこには、長野県のある歴史的背景が関係していると考えられる。
長野県は、縄文時代の遺跡や遺物が多く出土している
縄文時代の長野県は、八ヶ岳山麓などを中心に大きな文化圏があったという。その証拠に、2000を超す遺跡や出土品が見つかっている。代表的なものとしては、高山市の「堂之上遺跡」(国の指定史跡)や、茅野市の棚畑遺跡から出土した国宝「縄文のビーナス」、中ッ原遺跡から出土した国宝「土偶」(仮面の女神)などがある。また、同じく茅野市の特別史跡「尖石遺跡」にある「尖石」は、「とがりいしさま」として古くから信仰の対象であったという。そうした背景があるために、この巨石に対しても、何かの謂れを見出したくなったのかと思われる。


終わりに
いずれ生まれるかもしれない、信仰の原石
日本では古来より、岩や石を祀る信仰が存在する。その始まりの形態について、研究者の吉川宗明氏は、考古学的根拠から以下の3パターンが想定されるという。
- 自然石を信仰したパターン
- 人工的に整えた岩石を信仰したパターン
- 岩石を使って、別のものを信仰したパターン
また吉川氏は、現代において巨石信仰を表す用語として一般的な「磐座」について、正確な意味ではないと指摘している。磐座はあくまで「神が座す(または宿る)岩石」、つまり人と神を繋ぐインターフェースであり、神=石の場合は「石神」と呼び、別の概念になるという。その観点でみると、協議会は茅野市の巨石を「磐座」と捉えているが、その意味合いがどのようなものなのかは、現時点ではわからない。
そもそも前提として、協議会は「何もない石」であると明言している。とはいえ、元来日本人はこのような存在に対し、霊的なものを見出す性質がある。もしかしたら、どこかの誰かが、この巨石に何かしらの霊的な要素を見出したり、啓示を受ける可能性は否めない。そしてそれが、民間信仰的に広がる可能性も。そうなった場合、信仰パターンはどのようなものになるのだろうか。いずれにせよ、これから紡がれる歴史が楽しみだ。
※本記事のサブタイトルに「磐座」とあるが、これは市の説明版を基にしている。

主な参考資料
- withnews“工事中に現れた大きな岩「おもしろいから」しめ縄で祀った地元民 ”, 2015年9月8日(アクセス日:2025年1月3日).
- 石神・磐座・磐境・奇岩・巨石と呼ばれるものの研究“日本の岩石信仰は、いつどのように始まったのか?”, 2015年9月8日(アクセス日:2025年1月3日).
- 石神・磐座・磐境・奇岩・巨石と呼ばれるものの研究“岩石信仰の種類と見分けかた~石神・磐座・磐境・奇岩・巨石の世界~”, 2020年4月22日(アクセス日:2025年1月3日).
- 石神・磐座・磐境・奇岩・巨石と呼ばれるものの研究“磐座(いわくら)とはどういう意味ですか?”, 2023年11月28日(アクセス日:2025年1月3日).
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