『元乃隅神社』とは
1955年創建の日本海を見下ろす絶景神社

『元乃隅神社』とは、山口県長門市の津黄漁港の網元、岡村斉氏によって1955年に建立された神社。この神社は日本海の岸壁に建っているため、その荒波が海蝕洞に打ち付けることで、海水が中の空気と一緒に吹き上がる自然現象「龍宮の潮吹」を見ることができる。そのため、山口県屈指の絶景スポットとしても人気を博している。



10年かけて奉納された123基の鳥居
何といっても圧巻なのは、日本海を背景に所狭しと並び建つ鳥居である。1987年から10年に渡って、個人・企業問わず様々なところから計123基も奉納されており、それらが参道に100m以上に渡って建っている。また、神社及び周辺が保全活動によって綺麗に整えられていることから、今も地元で大切にされていることが一見してわかる。


そうした全体の様相から、近代の創建とはいえ親しまれるに値する深い由緒があるのか、または祭祀対象が日本の神のビッグネームなのかといえばそれとは異なる。実は、創建者岡村氏の夢での出来事が発端となっている。
宗教法人格や神社本庁に属さない個人所有の建築物
枕元に現れた白狐のお告げがきっかけ
一般的な神社に祀られているのは、山、海、川、草木などの自然をはじめとする万物に見出した神や、天照大御神に代表されるような神話の神々、そして地域の産土神、実在の偉人などである。しかし元乃隅神社は、どれも当てはまらない。ここで祀られているのは、創建者岡村氏の夢に出てきた狐である。
ある夜、岡村氏の枕元に現れた白狐は「これまで漁をしてこられたのは誰のおかげか」と言い、「吾をこの地に鎮祭せよ」というお告げを残したという。それを受け岡村氏は、この場所を神域と定め神社を建てることにした。そして、島根県の太鼓稲成神社より分祀し、『元乃隅稲成神社』(旧称)を建てた(なお現在、観光サイトには太皷谷稲成神社とは無関係と書かれている)。
すなわち元乃隅神社は、自身の夢での出来事を現実化させたという成り立ちの神社である。しかし、それが今や地元のみならず、山口県にとっても大切な神社として歴史を紡ぎ、伝統を創り上げていることは紛れもない事実である。



宗教法人格や神社本庁に属していない
日本の神社の多くが、宗教法人格を有していたり、神社本庁に所属している。しかし元乃隅神社は、どこにも未所属の神社である。ちなみに、それ自体は決して珍しいことではない。神社は家を建てるように、届け出を出せば個人で建てることが法律上可能である。日本には、そういった未登録の神社が10万社もあるという。ただしその場合、宗教施設ではないため税制優遇はなく、建築物扱いのため固定資産税はかかり、お賽銭は雑収入となる。

国内外から注目も集め観光地として飛躍する
建て替えを経て、日本一入れづらい賽銭箱がパワーアップ
老朽化に伴い、2014~2016年にかけて建て替え工事が行われた。その中で、「日本一入れづらい賽銭箱」として評判だった大鳥居も、道路側から参道上部に移設された。そして、高さ6m、賽銭箱の位置は5mと、移設前より1m高くし、アトラクション要素をよりアップさせている(『産経新聞』2016年6月10日)。


更なる観光客誘致に向け、異例の改名
2019年、社名が元乃隅稲成神社から元乃隅神社に改名された。きっかけは2015年、アメリカのニュース専門局CNNがウェブサイトで「日本の最も美しい場所31選」に選出したことである。以前も多くの観光客が訪れていたが、この選出により海外からも一気に注目を集めるようになる。
そこで神社側は、観光客の更なる誘致として、社名を短くし覚えてもらいやすいようにと改名を決断。SNS上では賛否がわかれたものの2018年、斎主の岡村頼樹氏はおみくじで「神のお告げ」を聞き、元乃隅神社に決めた(『時事通信』2018年11月5日)。
神社本庁によれば、戦後の混乱期などを除き、神社の改名は基本的にはないとのこと。しかし元乃隅神社は、述べた通りどこにも未所属な「個人の所有物」であるためそのような縛りはない。ゆえに岡村家がどのように扱っても問題なく、そういった裁量も自由である。
終わりに
地域活性化を促進する現代のインディーズ土着神社
元乃隅神社にも商売繁盛や子宝に恵まれるといったご利益はあるが、それ以上にエンタメ要素の側面が強い神社の印象を受ける。一方で、現在に至るまで維持・継承されてきた歴史と伝統があることも見逃してはいけない。そういった意味では、大手メジャーに属さず、地道な草の根活動で売れたインディーズのアーティストのようにも見える。
元乃隅神社は、今まさに創られている伝統(アーティストで例えるならブレイク中か?)をリアルタイムで追える貴重な神社と言えるかもしれない。私としては、改名時の「おみくじによる神のお告げ」という話が、年月を経てもしかしたら神話化するかもしれないと考えており、その推移を興味深く見ている。

主な参考資料
- 産経新聞“鳥居123基、朱色新たに 長門の元乃隅稲成神社で建て替え終える”,2016年6月10日.
- 時事通信“ 「最も美しい」元乃隅稲成神社、改名へ=「違和感ある」「御利益同じ」-山口・長門”, 2018年11月5日.
- “【公式】元乃隅神社”, (アクセス日:2024年8月6日).
- ながと観光ナビ「ななび」“元乃隅神社”, (アクセス日:2024年8月6日).
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